ナルコスの登場人物とゆかいな仲間たち

「マジックリアリズムは、コロンビアが発祥の地。不可解な事が日常的に起こる。肝心な時に限って、奇妙な事が。」

【ヴェンダース映画】役所広司受賞「パーフェクトデイズ」鑑賞前おすすめ10作品

ヴィム・ヴェンダース×役所広司=カンヌ男優賞

ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演作とあっては絶対にみのがせない!しかも本作では、カンヌ男優賞受賞作品だ。そこで今回はおすすめのヴェンダース作品を中心にドイツ映画を紹介したい。この記事を読むことで、「パーフェクトデイズ」が公開される頃には、あなたは普通の人よりもかなり詳しくヴェンダース映画を語れるようになるはずだ【永久保存版】。

 

目次

ヴェンダース映画】カンヌ映画祭受賞作「パーフェクトデイズ」とは

ヴェンダース映画パーフェクトデイズトップ

※画像の引用元:IMDb公式サイトより

 

映画「PERFECT DAYS」は、東京都渋谷区にある17箇所の公共トイレ改修プロジェクトをきっかけに生まれたドイツの名匠ヴァム・ヴェンダース監督作品。

 

主演に役所広司を迎え、ヴェンダースが公共トイレの中に神聖さを見出し、清掃員である主人公・平山が送る平凡にみえる日常の小さな変化を描いたドラマ。

 

2023年カンヌ映画祭コンペティション部門に出品され、役所広司が男優賞を受賞。

 

共演には、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未石川さゆり田中泯三浦友和らが出演している。

 

撮影は、ヴェンダース作品の「ランド・オブ・プレンティ」(2004年)、「アメリカ、家族のいる風景」(2005年)を手掛けたフランツ・ラスティグ。

 

日本公開日は2023年12月22日(124分)。

 

ヴェンダース映画】ヴィム・ヴェンダース論について

ヴェンダースは、1945年8月14日(今年78歳)デュッセルドルフ生まれ、西ドイツ育ち。

 

アメリカ音楽・映画などの文化に造詣の深さから、学生時代に映画漬けの生活を送り、1967年ミュンヘンに新設されたミュンヘン映画テレビアカデミーに入学し、本格的に映画つくりを学び、短編映画の制作などを手掛ける。

 

卒業制作では、ザ・キンクスに捧げた「都市の夏」(1971年)で監督デビューを飾る。

 

続いて、ペーター・ハントケ原作の「ゴールキーパーの不安」(1972年)により初の商業映画となる劇場用長編デビュー作となり、ファスヴィンダーらと共に、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手として注目を集める。

 

また、ロードムービー3部作として知られる「都会のアリス」(1974年)、「まわり道」  (1975年)、「さすらい」(1976年)において、ヴェンダースの特徴的な作風であるロードムービーというジャンルを打ち立てた第一人者としても知られている。

 

そして転機が訪れることになるのが、「アメリカの友人」(1977年)でコッポラに見出されたことで、ハリウッドで「ハメット」(1982年)を撮ることになるが、監督に全権が委ねられていないハリウッドの製作システムに翻弄され、アメリカ映画界に失望する。

 

しかし、ここで腐らないのが巨匠たる所以。撮影中断時に「ことの次第」(1981年)が撮影されたというのは有名なエピソードだし、また「ことの次第」はヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞する。

 

さらに、この時の経験がのちの親交つながったり、映画祭受賞作品を連発することなる原動力となったり、結果的には大きな収穫となる。

 

ヴェンダースの評価が絶対的になったのがこの時で、「パリ、テキサス」(1984年)ではカンヌ映画祭パルムドール、「ベルリン・天使の詩」 (1987年)でもカンヌ映画祭監督賞により、黄金期を迎え、精力的に活動していくことになる。

 

ニュー・ジャーマン・シネマが終焉した90年代以降も活動は衰えることなく、世界中でロケを敢行した究極のロードムービーにして近未来大作SF「夢の涯てまでも」(1991年)を制作、ミケランジェロ・アントニオーニと共同監督「愛のめぐりあい」(1995年)を務め、「ミリオンダラー・ホテル」(2000年)では、ベルリン映画祭銀熊賞を受賞し、世界3大映画祭受賞を果たす。

 

また、親日家としても知られるヴェンダースが敬愛する小津安二郎へ捧げた「東京画」(1985年)前後からドキュメンタリー作品も並行して撮られるようになり、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1995年)、「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(2011年) 、「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」 (2014年)などを発表している。

 

未だ現役として作品を発表し続け、存在力のある伝説的な映画作家だ。

 

そんな多面的な顔を持つヴェンダースの作品から厳選し、「PERFECT DAYS」(原題)(2023年)鑑賞前にみるべき作品(ドキュメンタリーを除く)を案内したい。

 

ヴェンダース映画】おすすめ10作品

ゴールキーパーの不安(1971年)

ヴェンダースの劇場用長編デビュー作。

 

サッカーの試合中、誤審に納得がいかないプロのゴールキーパーが、そのまま試合を放棄。

 

その足で街をさまよい、怒りをぶちまけたり、自分の好きなことをしたりなど、「タクシードライバー」や「フォーリング・ダウン」に通じる溜飲を下げる作用がある映画の系譜につながる。

 

前2作にあるような直接的な描写は控えめだが、ゴールキーパーに限らず仕事で嫌なことがあったとき誰もにも通じるストーリー構成は、ヴェンダースがのちに多くの作品を手掛けた原作ピーター・ハントケの世界観を再現。

 

また、情緒不安定を煽る音楽とロビー・ミュラーの画面による体現。

 

ラストはやや言いたいことがわかりにくく、強引な印象だが、フェードアウトの仕方についてはヴェンダースの初期作品にみられる、らしさを感じる。

 

・緋文字(1972年)

19世紀の米作家ナサニエルホーソンによる1850年代表作「緋文字」を映像化したヴェンダースの初期作品。

 

17世紀後半、アメリカ新大陸である大西洋岸で厳格な宗教が根付いた閉鎖的な村が舞台。

 

その限定的なコミュニティーで、私生児を産んだことで、姦通の罪を問われ、追われているヒロインを巡る物語。 「緋文字」とは密通の意味で、罪を犯した者に使われる差別的な言葉。

 

劇中に出てくるAのイニシャルはAdulteryを表しており、その印を身につけさせられ、晒し者の扱いを受ける。 ヴェンダースっぽくないテーマを扱っており、この分野ならスコセッシだったり、ポール・シュレイダー、はたまたブレッソンあたりの方がしっくりくる。

 

ヴェンダースにとって得意分野ではないため、時代考証の作り込みや、宗教の描き方がやや不足気味となっていて、世界観としては説得力に欠ける印象を受けるものの、苦悩・疎外感・罪悪感により追い込まれていくさまはよく描かれており、異色作に挑んだ姿勢を含め嫌いになれず評価したいところ。

 

都会のアリス(1974年)

ヴェンダースの「ロードムービー3部作」の第1作であり、のちに続くロードムービー群の原型にして、大人と子どもが旅する代表作のひとつだ。

 

ロビー・ミューラーが撮影したモノクロ16mmによる粗めのフィルム映像に、CANのミニマルで乾いた音楽が繰り返し使用され、絶妙で抜群に雰囲気が素晴らしく、独特な時間の流れが心地よい。

 

証明写真で4コマ的に写真を撮るシーンはいつみても多幸感に溢れている。 オープニングとラストの引いたショットの対比が印象的で、はじまりはすぐに引き込まれて終わりは余韻が残る。

 

・まわり道(1975年)

ヴェンダースロードムービー第2弾として、3作品通してリュディガー・フォーグラーが主演。

 

また、ナスターシャ・キンスキーのデビュー作にして、全くセリフがないが存在感は抜群。 同3部作の中で本作だけがカラーで製作された。

 

ゲーテの作品「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」がベースに、脚本・原作はペーター・ハントケ、撮影はロビー・ミューラー、音楽はユルゲン・クニーパーが各々担当。

 

原題は、「Falsche Bewegung (誤った動き)」となっている通り、迂回と脱線を繰り返し、全体的なトーンとして、内省的・不毛・ニヒルな感じが漂う彷徨の映画である。

 

・さすらい(1976年)

ヴェンダースロードムービー3部作の最終作にして、映画内映画が用いられる代表的のひとつ。

 

ヴェンダースの映画哲学、アイデンティティ、警鐘などが名台詞として使われて語られているように感じられる。

 

不思議な出会い方をしたふたりの男が、ドイツ各地の映画館をキャンピングカーで巡る姿をゆっくり3時間使って描く。

 

当時の西ドイツと東ドイツの国境周辺の風景をロケハンしてからの撮影だが、脚本等の細部は取り決めず即興演出的スタイルがナチュラルに作用する。 拘りのモノクロ映像は、お馴染みのロビー・ミューラー

 

そして、風景と溶け合う音楽は、アクセル・リンシュテットによる哀愁のブルース・ロックが染みる。

 

ビートルが全速力で海につっこむシーンとか、なんだかんだトイレのシーンは強烈に印象に残る。 ジム・ジャームッシュ作品は、本作にかなり影響されていることがみてとれる。特に、「ダウン・バイ・ロー」への反映が色濃い。

 

アメリカの友人(1977年)

パトリシア・ハイスミスリプリー・シリーズ第3作が原作となっている本作は、ヴェンダースデニス・ホッパーにより、生まれ変わった。

 

太陽がいっぱい」でアラン・ドロンが演じたトム・リプリーという男がアメリカの友人として死神のように登場する。

 

そんなデニス・ホッパーが主人公のはずが、ブルーノ・ガンツとほとんどW主演とも捉えられる名演。

 

その2人に加えて、ジェラール・プランも登場し、サスペンスは深まる。

 

他にも、映画監督がキャスティングされていて、ニコラス・レイサミュエル・フラーが印象的だ。

 

また、ヴェンダース作品常連のリザ・クロイツァーも紅一点として好演。

 

そんなヴェンダースの息のかかった癖のある大変豪華な出演者たちをロビー・ミューラーの撮影、ユルゲン・クニーパーの音楽により、目も耳そして心までも奪われる。

 

・ハメット(1982年)

プロデュースにコッポラ、監督はヴェンダース、原作はハードボイルド作家として一時代を築いたダシール・ハメットを主人公にしたジョー・ゴアズのミステリー小説、という非常に豪華な組合せ。

 

ヴェンダースは、コッポラ側で固められたアウェーの中に放り込まれ、ハリウッドのシステムに翻弄され、完成まで非常に時間と労力を費やし何とか完成まで漕ぎ着けた苦労話は有名。

 

渋くてハードボイルドのテイストも完全にコッポラの趣向だし、撮影のいざこざにより、コッポラとの相性は最悪な形で関係性は終わった。

 

およそヴェンダースらしくないが、ジョン・バリーの抜群に素晴らしいジャズが流れて、セット撮影とセピア色を色調にした映像により当時を再現した雰囲気もよい。

 

また経済格差や社会の暗部が扱われるテーマなどどちかと言うと、ファスヴィンダー寄りの作品だが、満足度を満たしてくれる骨太な逸品だ。

 

どう考えても企画の段階でヴェンダースに向いていないことはわかるはずだが、それでもなお仕事を請けたゲルマン魂に敬意を表したく、フィルモグラフィー上を彩る異彩を放つ貴重な作品だ。

 

ベルリン・天使の詩(1987年)

ロードムービーではないもののヴェンダースの代表作のひとつ。

 

本作は、ベルリンないしドイツそのものが東西に分断されていた時代を描いた非常に価値のある作品であるとともに、大人のロマンティックな御伽。

 

天使なのに、おっさんが多くて、盲目の世界で、五感も感じない死んだようなゾンビ状態という設定が非常にユニークで、天使も人間になりたいと願うファンタジーと思ってしまうが、それは勘違い。

 

実際は神による罰で幽閉を受けているという宗教的な設定だが、そこは説明が省略されているので、解説を調べないとわからない。

 

天使はモノクロ、人間のパートカラーの描き分けの効果により、五感の嬉しさ、今を生きる喜び、そして愛といった人生讃歌の映画。

 

サーカスでブランコ乗りの美女、ライブハウスでパフォーマンスを繰り広げる先鋭的なダークなバンド(クライム&ザ・シティ・ソリューション、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ)、ピーター・フォーク扮する刑事コロンボが出演するなど細部の描き込みも非常に豊かだ。

 

カンヌ映画祭監督賞。

 

・時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース! (1993年)

ベルリン・天使の詩」の続編で、6年後に制作された本作では、ベルリンの壁崩壊後の90年代前半を舞台に、前作にも登場し主人公の相棒が新たな主役となって新たなファンタジーをみせる。

 

オットー・ザンダー、ブルーノ・ガンツ、ソルヴェーグ・ドマルタンら前作からの続投組に加えて、ナスターシャ・キンスキーウィレム・デフォーらが新たに起用され、さらに本人役で出演している前作に続きピーター・フォークの他、ルー・リードミハイル・ゴルバチョフが増員。

 

哲学的かつ宗教的で閉鎖的な作風の前作に比べると、ベルリンの壁崩壊による時代の変化や自由な雰囲気によるコミカル要素が強くなったことにつながり、よく背景が反映されている。

 

前作のキャラクターを含め登場人物が増えたことで、前作とは違った意味で複雑さがあり、未回収のエピソードや設定に疑問が残るところもあるが、差別化された作り込まれた続編は流石ヴェンダースと唸らせられるところが多い。

 

カンヌ映画審査員グランプリ

 

・エンド・オブ・バイオレンス(1997年)

ヴェンダースのLA3部作1作目にして異色作。 政治と陰謀が絡んだスケールの大きいサスペンス映画。

 

テーマにバイオレンスが用いられており、暴力の原因は様々だが、その本質に迫る新境地開拓を試みた作品。

 

日常的なシーンから超現実的なシーンに切り替わるなどひとときも目が離せない。

 

主人公のハリウッド大物プロデューサーは、過激な暴力映画で成功を収めていたが、ある日実際に暴力を体験して死に直面することで価値観が一変する。

 

そこからストーリーが複数軸同時進行していくため、ややわかりにくいが、登場人物を区別していくと整理してみることができる。

 

デヴィッド・リンチ系のサスペンスでビル・プルマンも出演していることから、「ロスト・ハイウェイ」を髣髴とさせる。

 

ライクーダーの音楽がカッコイイし、映像も洒落ていて、ロサンゼルスの風景・夜景が美しい。

 

また、衣装にはリンチ作品の多くに携わるパトリシア・ノリスが関わっていて、様々な表情豊かに画面を彩る。

 

ヴェンダース映画】おすすめ10作品以外の映画たち

・「ことの次第」 (1982年)はヴェネツィア映画祭の記事をチェック↓

narcos.hatenablog.com

 

・「パリ、テキサス」(1984年)は別の記事を出しているのでこちらをチェック↓

narcos.hatenablog.com

 

・「ミリオンダラー・ホテル」(2000年)は別の記事を出しているのでこちらをチェック↓

narcos.hatenablog.com

 

【ニュー・ジャーマン・シネマ】ヴェンダース以外の映画たち

60年代から80年代までヴェンダースのほかに、ファスビンダーヘルツォーク、シュレンドルフら新世代の台頭により、戦後ドイツを描く若手監督が作家性の強い骨太な作品が発表され、国際的に評価を高めた。さいごに、詳細は省くがヴェンダース以外のニュー・ジャーマン・シネマの作品を紹介したい。

 

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品

・愛は死より冷酷(別題:愛は死より冷たい)(1969年)

聖なるパン助に注意 (1971年)

・ペトラ・フォン・カントの苦い涙 (1972年) 

・不安は魂を食いつくす(不安と魂)(1974年) 

自由の代償(1975年)

・少しの愛だけでも (1976年) 

シナのルーレット(1976年)

・デスペア 光明への旅(1978年)

・13回の新月のある年に (1978年)

マリア・ブラウンの結婚 (1979年) 

・第三世代(1979年) 

ベルリン・アレクサンダー広場 (1980年) 

・ローラ (1981年)

ベロニカ・フォスのあこがれ (1982年) 

 

ヴェルナー・ヘルツォーク監督作品

・生の証明(1968年)

・アギーレ・神の怒り(1972年)

・ガスパー・ハウザーの謎(1974年)

・シュトロツェクの不思議な旅 (1977年)

ノスフェラトゥ(1979年)

・ヴォイツェク(1979年)

・フィツカラルド(1982年)

コブラ・ヴェルデ(1987年)

 

アレクサンダー・クルーゲ監督作品

・昨日からの別れ(1966年)
・定めなき女の日々 (1973年)
・危急の際に中道は死 (1974年)
秋のドイツ (1978年)
・愛国女性 (1979年)
・盲目の映画監督(1985年)

 

フォルカー・シュレンドルフ監督作品

テルレスの青春(1966年)

カタリーナ・ブルームの失われた名誉 (1975年)

ブリキの太鼓(1979年)

 

マルガレーテ・フォン・トロッタ監督作品

・鉛の時代(1981年)

・ローゼ・ルクセンブルク(1986年)

・三人姉妹(1988年)

 

ハンス=ユルゲン・ジーバーベルク監督作品

・ルートヴィヒII世のためのレクイエム(1972年)

カール・マイ(1974年)

ヒトラー、あるいはドイツ映画(1977年)

 

まとめ

・【ヴェンダース映画】カンヌ映画祭受賞作「パーフェクトデイズ」とは

・【ヴェンダース映画】ヴィム・ヴェンダース論について

・【ヴェンダース映画】おすすめ10作品

・【ヴェンダース映画】おすすめ10作品以外の映画たち

・【ニュー・ジャーマン・シネマ】ヴェンダース以外の映画たち

 

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