毎年8月末から9月初旬にかけてイタリア北東部の水の都ヴェネチアで映画祭が開催される記念すべき時期。2023年は現地時間8月30日から9月9日までが映画祭の期間となっている。ベルリン映画祭と同様に日本では劇場鑑賞まで時間がかかるものの、映画ファンならば要チェック。そこで今回は過去作を振り返る企画第3弾として、ヴェネツィア映画祭受賞作関連のおすすめヨーロッパ映画10作品他全50作品【永久保存版】。
目次
- 【ヴェネツィア映画祭映画】について知っておくべきこと
- 【ヴェネツィア映画祭映画】注目したいイタリア人監督
- 【ヴェネツィア映画祭映画】最低限みるべき作品の選出基準について
- 【ヴェネツィア映画祭映画】最低限みるべきヨーロッパ映画10作品
- 【ヴェネツィア映画祭映画】最低限みるべきヨーロッパ映画10作品以外の映画たち
- まとめ
【ヴェネツィア映画祭映画】について知っておくべきこと
※画像の引用元:ヴェネツィア映画祭公式サイトより
おさらいになるが、映画祭においてテーマが異なり、ベルリン映画祭は「社会派の作品」・「新人監督歓迎」の傾向があり、カンヌ映画祭は「独自性」・「商業性」を重視していた。
ベルリン映画祭はこちらをチェック↓
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では、ヴェネツィア映画祭はどうかというと、「芸術性の高い作品」が選ばれている。
加えて世界最古の歴史を持つ歴史を待ち、1932年〜1945年までは最高賞としてムッソリーニ賞が設定されており、戦争の影響が色濃く反映されていた。
また、ルイジ・デ・ラウレンティス賞(新人監督賞)、マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)、ロベール・ブレッソン賞(ブレッソンのように崇高な美学を貫いた映画作家に与えられる名誉ある賞だが、イタリアの映画祭なのになぜブレッソンなのかは不明)など他の映画祭に比べて賞にも多様性がある。
現在の最高賞は金獅子賞だが、ムッソリーニ賞のあと戦後は映画祭自体が開催されず、その後1947年と1948年はヴェネツィア国際賞となり、1949年からは古代ヴェネツィア共和国の最も有名なシンボルであり、ヴェネツィアの象徴である金獅子をロゴとして定着。
世界三大映画祭制覇の科挙は映画人なら多くが望んでいるため、ヴェネツィア映画祭での受賞を狙っている作品は、他の映画祭同様初のお披露目として温存されている作品も少なくなく、注目作が集まっている。
今年の注目作のひとつだったルカ・グァダニーノ×ゼンデイヤの「チャレンジャーズ」が公開延期となってしまったが、公式上映作品はすでに発表されており、その一部を抜粋すると以下の通り。
・「Bastarden (The Promised Land)」ニコライ・アーセル
・「Dogman」 リュック・ベッソン
・「哀れなるものたち」ヨルゴス・ランティモス
・「Adagio」 ステファノ・ソッリマ
・「L’Ordine Del Tempo (The Order of Time)」リリアーナ・カヴァーニ
・「The Palace」ロマン・ポランスキー
また、今年はアメリカ映画のラインナップが目立つのが特徴的だ。
・「マエストロ その音楽と愛と」 ブラッドリー・クーパー
・「Origin」 エバ・デュバーネイ
・「The Killer」 デビッド・フィンチャー
・「Coup De Chance」ウディ・アレン
・「The Wonderful Story of Henry Sugar」ウェス・アンダーソン
・「The Caine Mutiny Court-Martial」ウィリアム・フリードキン
・ 「Aggro Dr1Ft」ハーモニー・コリン
・「Hit Man」リチャード・リンクレイター
尚、日本から 濱口竜介監督作品「悪は存在しない」、塚本晋也監督作品「ほかげ」などが選出されている。
【ヴェネツィア映画祭映画】注目したいイタリア人監督
今回の記事では、これまで紹介してきたベルリン・カンヌ映画祭とのかねあいから選出している。
ネオリアリズム以降、主に活躍した人選としたので、10選からはロッセリーニは外している。
そのため、ヴィスコンティ、フェリーニ、アントニオーニを中心に据えた。
これに加えて、パゾリーニも入れたかったのだが、先にパゾリーニの特集記事を挙げたので、今回は同様に外している。
パゾリーニについてはこちらをチェック↓
他にも、ジュゼッペ・トルナトーレ、ナンニ・モレッティらの作品も活躍した時代がもっと後なので同様の扱いとした。
【ヴェネツィア映画祭映画】最低限みるべき作品の選出基準について
イタリア人監督以外の選出基準については、前回・前々回の映画祭特集の時と同様。
世界3大映画祭のすべてで最高賞を受賞している映画作家は世界でたったの3人しかおらず、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー、ミケランジェロ・アントニオーニ、ロバート・アルトマンがその栄誉ある賞を受賞している。
また、最高賞ではないものの、三大映画祭での受賞歴を誇る監督作、またその所縁のある作品からヨーロッパ映画を今回は独自に選出した。
【ヴェネツィア映画祭映画】最低限みるべきヨーロッパ映画10作品
・情婦マノン(1949年)
映画史上初めて世界三大映画祭の全てで最高賞を受賞した映画作家、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督作。
本作は文学における最初期のファムファタール作品である「マノン・レスコー」を原作とし、戦中戦後の混乱期であるフランスを舞台に置き換えて、時系列を遡る三部構成として描かれる。
普通の映画なら本作においてラストのかなり手前で終わるかのように、蛇足のような違和感のように錯覚してしまうが、むしろ本作の肝はまさにこの結末にある。
ここに作家としての真骨頂が込められていて、非常に美しい愛の物語が結実されていて、全く古さを感じない永遠の愛、不変性に唸らせられる。クルーゾー作品は恐るべしだ。
ヴェネツィア映画祭金獅子賞。
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督作品
犯罪河岸(1947年)
・田舎司祭の日記(1950年)
ポール・シュレイダーが「タクシードライバー」のトラヴィスのキャラクター造形に本作の若い司祭をモデルにしたり、「魂のゆくえ」でも本作を原型にしていたり、ブレッソンの影響が色濃く反映されているのがよくわかる。
さて、本作はカトリック作家ジョルジュ・ベルナノスの同名小説を原作に、ブレッソンのデビュー作「罪の天使たち」でもみられた、聖と俗の間で葛藤するテーマが取り上げられている。
フランスの北端に赴任した若い司祭が、村人たちとの現実と、自身の信仰とのギャップに戸惑いながら、自信の不調も相まって病苦に悩み、孤立してしまう様が日記に綴られていく。
本作でみられるような周囲からの断絶から思わぬ方向へと展開していくつながりとして、のちに「バルタザールどこへ行く」・「少女ムシェット」にも引き継がれていく。
また、本作以降の作品に比べて台詞は多いものの、ローアングルとモノクロによる陰影の強弱の演出により、画での状況説明が多々みられる。
キャストも素人俳優をメインに起用するようになり、ブレッソン独自のスタイルを確立した作品として知られる。
ヴェネツィア映画祭国際賞。
ロベール・ブレッソン監督作品
バルタザールどこへ行く(1964年)
・道(1954年)
フェデリコ・フェリー二の名作「道」。
敗戦後のイタリアを舞台に、名優アンソニー・クインとジュリエッタ・マシーナによる儚くも美しニーノ・ロータのメロディーとモノクロさが映えるロードムービー。
パゾリーニの「アッカトーネ」とは反対の王道スタイル。
こういった内容の作品は、多かれ少なかれ、誰にでも当てはまるだけに、胸が締めつけられる。
ヴェネツィア映画祭銀獅子賞。
フェデリコ・フェリー二監督作品
青春群像(1953年)
・魔術師(1959年)
魔術(魔術師師)VS科学者(医師)、非現実VS現実、偽物VS本物、宗教VS無宗教、といった不変のテーマが扱われているエンタメ要素の強いベルイマン作品。
時代は19世紀半ば、幌馬車で旅をする放浪の魔術師団と訪問先のある村で権力者たちとのやり取りが繰り広げられる。
濃淡の強い白黒の映像で描かれるパワフルな作品で、二項対立がミステリーを生み、みるものを作品世界へと引き込む吸引力に優れている。
ヴェネツィア映画祭審査員特別賞。
イングマール・ベルイマン監督作品
ファニーとアレクサンドル(1983年)
・白夜(1957年)
舞台はヴェネツィアの運河、常にやや夜霧がかかっているような、幻想的な雰囲気が抜群。
ドストエフスキーの原作を、本作から「山猫」まで3作品続く、監督ルキノ・ヴィスコンティ、撮影ジュゼッペ・ロトゥンノ、音楽ニーノ・ロータによる、神がかったトライアングル。
中心となる男女の会話劇(マルチェロ・マストロヤンニ&マリア・シェル)、そこに絡むもうひとりの男(ジャン・マレー)との三角関係。
いい映画には絶対と言っていいほどダンスが欠かせないが、「山猫」とは違った意味で、いい踊りっぷりをみせてくれる、最高なシーンだ。
「白夜」というタイトルを回収するラストまで、非常に美しいモノクロ映画であるが、現実でこれを喰らったら立ち直れないほどのトラウマになるファムファタール映画。
シンプルにして、全てのコントラストが絶妙、非常に味わい深い大人の恋。
ヴェネツィア映画祭銀獅子賞(監督賞)。
ルキノ・ヴィスコンティ監督作品
揺れる大地(1948年)
若者のすべて(1960年)
熊座の淡き星影(1965年)
・水の中のナイフ(1962年)
ポランスキーの長編デビュー作。脚本にはイエジー・スコリモフスキも参加しており、今ではみることの出来ない贅沢な組合せだ。
本作はかなり無駄を省いたスタイリッシュな作品だ。
ヨット・男女3人・ナイフといった、わすがなモチーフですら、いきなりヴェネツィア映画祭で受賞してしまう類稀なセンスの持ち主で、処女作にして非常にレベルが高い。
最小限の登場人物&舞台設定して、シンプルなストーリー、音も映像もシャープ。
全編に渡り気品が漂うジャズが使用されおり、湖上の水面と陽射しの変化というコントラストが効いたモノクロ映像が非常に美しい。
だからといって退屈というわけではなく、ヨットという日常から切り離された空間で、1本のナイフが緊張感を煽る心理サスペンスが展開される。
密集劇とも捉えることのできる開放的だが閉ざれた空間で、微妙な心理変化の揺さぶり方が巧みで、すでに完成された領域にある。
ロマン・ポランスキー監督作品
オフィサー・アンド・スパイ(2019年)
・赤い砂漠(1964年)
アントニオーニ初のカラーによる冒頭の工業地域や途中でうつしだされる濃霧、そして海といった退廃的な描かれかたとは対照的に、夢想としてのビーチと砂浜といった健康的な描写や対比の風景が美しい。
色彩設計も非常に豊かで実験的だ。
それでいて、画面はぼかしがかっていて、幻想的な雰囲気が漂っている。
不協和音が断片的にわずかに響いていて、作品の導きたい方向性への効果的に使われている。
主演は勿論モニカ・ヴィッティ。こちらもカラーでみることでより際立つ。本作では精神的に病んだ内向的な女性を演じる。
愛の3部作に通じるものがあるものの、それ以上にも増した虚無感、繊細さ、狂気を孕んでいる。
テクノロジーの進化による環境問題への提起、近代社会に救う病巣、安住の地を求め彷徨う果てに、タイトルが示す赤い砂漠が意味するものとは。
アントニオーニ最高傑作。
ヴェネツィア映画祭金獅子賞。
ミケランジェロ・アントニオーニ監督作品
女ともだち(1955年)
愛のめぐりあい(ヴィム・ヴェンダースと共同監督)(1995年)
・ことの次第(1982年)
ヴェンダースがコッポラに見出され、ハリウッドの製作システムに翻弄された「ハメット」の苦悩が投影された作品。
そのため、映画内の監督をヴェンダース、プロデューサーをコッポラに反映してみる映画。
撮影が進まないという映画人としてのヴェンダースの苦悩の現実をそのままに描かれており、同傾向の作品には「8 1/2」の他にも各映画作家により製作されている。
宿命とも言える職業病が付き纏い、彷徨うことになり、その寄る方なさが赤裸々に浮き彫りになる。
尚、本作は「ハメット」撮影中断の際に作られた映画で、映画完成への執念についての職人魂に痺れる。
ヴェネツィア映画祭金獅子賞。
・緑の光線(1986年)
エリック・ロメール監督による喜劇と格言劇シリーズ第5作。
夏にみるのにぴったりな、長いバカンスなのに、こじらせ女子のおひとり時間の過ごし方をゆったりと味わう作品。
ロメールのアンニュイな会話劇、繊細な心理描写、フランス各地の風景描写など見どころは多いが、全てはラストのためにある。
本作を最後までみれば、日常の悩みなんて、あゝもういろんなことはどうでもいいや〜、くよくよしてた自分が馬鹿みたいだわ〜、とニッコリホッコリする不思議な元気をもらえる、美しいパワースポット映画。
ヴェネツィア映画祭金獅子賞。
エリック・ロメール監督作品
恋の秋(1998年)
・黒猫・白猫(1998年)
エミール・クストリッツァ監督のエキセントリック・ワールド大炸裂する奇天烈ブラックコメディー。
猫のタイトルに納まらないあらゆる動物が放つパワー、そこに人間のエネルギーも加わり、ひとつに混ざりあう衝撃作。
毎度のことながら、クストリッツァは奔放にして、セオリーから逸脱する、ある種治外法権とも捉えることが出来る自由な作風が最大の魅力。
型にはまらない説明不要(というか困難)の体感型ムービーだ。
ヴェネツィア映画祭銀獅子賞。
【ヴェネツィア映画祭映画】最低限みるべきヨーロッパ映画10作品以外の映画たち
金獅子賞
舞踏会の手帖(1937年)
ロベレ将軍(1946年)
禁じられた遊び(1952年)
奇跡(1955年)
ラインの仮橋(1960年)
去年マリエンバートで(1961年)
僕の村は戦場だった(1962年)
昼顔(1967年)
さよなら子供たち(1987年)
ウルガ(1991年)
トリコロール/青の愛(1993年)
父、帰る(2003年)
ファウスト(2011年)
銀獅子賞
霧の中の風景(1988年)
国際賞
ヨーロッパ一九五一年(1952年)
審査員特別賞
鬼火(1963年)
女と男のいる舗道(1962年)
中国女(1967年)
奇跡の丘(1964年)
アレクサンダー大王(1980年)
監督ミケーレの黄金の夢(1981年)
明日を夢見て(1995年)
海を飛ぶ夢(2004年)
エッセンシャル・キリング(2010年)
新人監督賞
白い決死隊(1954年)
灰とダイヤモンド(1959年)
ドリー・ベルを憶えている?(1981年)
デカローグ(1989年)
栄養金獅子賞
モニカ・ヴィッティ(1995年)
まとめ
【ヴェネツィア映画祭映画】最低限みるべきヨーロッパ映画10作品
・情婦マノン(1949年)
・田舎司祭の日記(1950年)
・道(1954年)
・魔術師(1959年)
・白夜(1957年)
・水の中のナイフ(1962年)
・赤い砂漠(1964年)
・ことの次第(1982年)
・緑の光線(1986年)
・黒猫・白猫(1998年)
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