ナルコスの登場人物とゆかいな仲間たち

「マジックリアリズムは、コロンビアが発祥の地。不可解な事が日常的に起こる。肝心な時に限って、奇妙な事が。」

【2023年】年間映画ベスト10

年間ベストの悪癖をこじらせる作品が多く公開された

いよいよ明日大みそかを迎え2023年も大詰め。本当に1年はあっという間だ。今年は毎月のように発生する年間ベスト級の作品が多く、大変喜ばしかった。まだまだみれていない作品も多くあるものの、2023年の私的映画ベストテンをまとめたい【永久保存版】。

 

目次

【2023年】2022年以上に豊作だらけの映画が劇場公開された

f:id:narcos:20231230193023j:image

※画像の引用元:Filmarks公式サイトより

 

まずは、ベスト10からは漏れてしまったものの、特別枠を紹介したい。レベルが高かったり、思入れの多い作品だったりが並んだ。

 

・ノースマン 導かれし復讐者

傑作ばかりを世に送り続けている新進気鋭の映画作家、ロバート・エガースが本格的に飛躍を遂げ、大幅にスケールアップした作品となり、大規模なシネコンでもかかるようになったことや嬉しいやら悲しいやら。

 

出演者も大変豪華で、群雄割拠な顔ぶれが聳え立つ。

 

アレクサンダー・スカルスガルドニコール・キッドマン、クレス・バング、アニャ・テイラー=ジョイ、イーサン・ホークビョークウィレム・デフォーらが出演。

 

このストーリーをみて話がわからない人はひとりもいないはずだが、それでも自身の勉強不足を恥じた。

 

「ライオンキング」かよ、と思わされるものも、その元ネタはシェークスピアの「ハムレット」であり、その原作となるアムレートが題材となっている。

 

撮影は、ロバート・エガース作品には欠かせないジェアリン・ブラシュケが今回も務め、北欧の美景を禍々しく捉えた手腕を発揮。

 

音楽は、ロビン・キャロラン&セバスチャン・ゲインズボローによる、ロバート・エガース作品に通底する不協和音を轟かせる。

 

ロバート・エガースはアクション映画初挑戦。

 

とはいえ、バイオレンス描写はかなり攻めていて、こんなにもエネルギッシュな仕上がりになるとは思わず、いい意味でやや面を喰らったし、こっち方面のセンスのよさも相当なものだということがはっきりと証明された。

 

そして、本作に使われている文字の書式がなんていうのかわからんけど、めっちゃ好き。隅々まで本当にセンスがいい。

 

・コンパートメント No.6

1990年代を舞台に、ペトログリフ(岩面彫刻)を目指す物語。

 

ふたりの男女のラブストーリー、モスクワからサンクトペテルブルク経由で世界最北端の駅へ向けて旅するロードムービー、といった好きなものが詰まった大好きな映画。

 

ロシアの寝台列車で巡る道中には、そこかしこにちりばめられたフィンランド・ロシアの国家間のモチーフ、車窓からの風景の美しさ、途中下車した駅で暮らすユニークな人々など、現実離れした夢物語の如くさまざまなエピソードの連なりは銀河鉄道999がふと頭をよぎる。

 

カンヌ映画祭グランプリ。

 

・ベネデッタ

ポール・ヴァーホーヴェンの最新作は、ベネデッタ・カルリーニの半生を描く、実話に基づいていた歴史映画。

 

歴史上初の⼥性同⼠の同性愛裁判記録「ルネサンス修道⼥物語―聖と性のミクロストリア」が原案になっている、セクシャルサスペンスであり、ナンスプロイテーションもの。

 

本作でも凄まじいまでのヴァーホーヴェン節が全開となっていて、バイオレンス・セックスを躊躇なく放りこみ、宗教・哲学を挑発的に捉え、老いてなお盛んなさまは相変わらず、バリバリのR18+仕様。

 

舞台はペストが流行した17世紀のヨーロッパ。完全に男が支配する社会において、女性主人公が成り上がりをみせ、これまでのヴァーホーヴェン映画に共通するヒロイン像も健在。

 

ベネデッタを演じるのは、「エル ELLE」のヴィルジニー・エフィラ、ベネデッタと親交を深めるバルトロメア役ダフネ・パタキア、修道院長役シャーロット・ランプリング教皇大使役ランベール・ウィルソンらが登場する、首尾一貫したヴァーホーヴェン監督ならではの作品となっている。

 

・逆転のトライアングル

リューベン・オストルンドによる風刺を使ったブラックコメディーの作風は、本作においても優雅に装った富裕層たちの内面が暴かれる。

 

トライアングルの意味に込められた想いが物語構成にもつながっているため、3部構成になっている。

 

やや残念だったのは、あらすじに書かれているストーリー紹介がやや過剰で、よくない。

 

そして、話を丁寧に積み重ねつつ、豪華クルーズを阿鼻叫喚の地獄絵図が全てを持っていく。

 

カタルシス効果が匠なのか、ふざけているのか。狂っているのはおれか世界かみたいなセンスをみせつけられた。

 

それ故にためにためた2部パートに比べて、ラストパートは疾走気味に感じてしまい、もっとみたかった、気になるあれこれが多い。

 

そして、いちばん残念だったのが本作のヒロインである超絶美女チャールビ・ディーンがすでに他界していたこと。

 

カンヌ映画祭パルムドール

 

アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞ノミネート。

 

・ダークグラス

待望のダリオ・アルジェント最新作は、過去記事で取り上げたので、こちらをチェック↓

narcos.hatenablog.com

 

・小説家の映画

ホン・サンス映画の代名詞がふんだんに使われて作品ごとに進化がみられる。

 

お馴染みの共演者、固定したカメラ、長回し、ズームインとズームアウト、スランプに陥った作家と女優という組合せにまつわる会話劇、独特のリズム、間の取り方、これらが醸し出すオフビートで描かれる至福の映画体験はクセになる。

 

最初期・転換期・現在期、その監督作を全てみたくなる。

 

ベルリン映画祭銀熊賞(審査員大賞)。

 

・バービー

ピンクを制するものは世界を制す!?

 

ランキングとは関係なく、今年を象徴する1本となった圧倒的なビジュアルは他を圧倒する突き抜けた存在。

 

予告編から気になりまくっていた、こんなにキラキラでピンクピンクした映画ははじめて笑。

 

画面を席巻するピンクを基調としたパステルカラーやご機嫌なサントラで彩られた、バービーランドの完成度はかなり高い。

 

この企画を成立させるのには、リアルブロンドマネキンであるマーゴット・ロビーなしでは成り立たないほどのハマり役。

 

この完全な異世界感を醸し出すのには欠かせない存在、それはライ・ゴズ、シム・リウなども然り。

 

そして、もっとわかりやすい映画かと思っていたし、「トイ・ストーリー」みたいな雰囲気もあるのかと思っていたが予想とはかなり違った。

 

むしろ、「ブレードランナー」の方が近いかも知れない。でももちろん似て非なるものだ。

 

グレタ・ガーウィグがバービーの再現だけという凡庸な映画を製作するわけでもなく、大胆なアレンジや捻りが加わっている。

 

境界線も曖昧で、ちょいちょいメタ目線が突如として放り込まれるなど、どこからどこまでがみたいことはよくわからないやりたい放題さで自由奔放さはかなりのもの。

 

現在を取り巻く社会派映画でもあり、現在製作される意味もあり、問題提起もされていた。

 

いい映画の条件である、リアルワールドへ行って帰ってくる映画という大枠を持ち、超絶大ヒット&批評的にも成功しており、今夏必見の新たなる伝説的カルトムービーの爆誕だ。

 

グランツーリスモ

本格的なゲーム黄金時代の到来といえるほど、原作からの映画化が増えているのが今年の特徴のひとつだが、カーレースゲームと映画の相性は非常によいこともあり、その中でも激アツなハイクオリティーの作品が爆誕した。

 

また、このジャンルにおいて重要なポイントとなる、カーレース・人間ドラマ・キャラクター(アーチー・マデクウィ、オーランド・ブルーム、デビッド・ハーバーらが出演)・登場車種(GT-Rをはじめ、ランボルギーニなど名だたる名車たち)・オリジナリティーもキッチリと押さえており、非の打ち所がなく、これまでのモータースポーツ映画においても最高レベルの出来栄え。

 

さらに、本作はプロレベルのゲーマー(1000時間以上プレイ)が実際のレースに挑戦する、といった企画自体が実話を元にしている夢のある物語としての魅力も備えており、かなりの高評価も納得だ。

 

SFが得意なニール・ブロムカンプともバッチリハマっていて、最高傑作更新。

 

・テリファー&テリファー 終わらない惨劇

1作目は、今年続編が劇場公開された2016年のカルト的ホラー映画。

 

特殊メイクアップアーティストとしても活躍するダミアン・レオーネが手掛けた監督作品。

 

本作は、かなり攻めた描写がありつつ、ゆるっとしたチープな作りで、意味深めのように感じられる謎の多いようにも捉えることが出来る設定や、あと場面展開が少な過ぎる限定された空間などが気になるがなど、挙げ始めるとキリがないものの、人気が出るのも何となくうなずける。ハッピーハロウィン!映画。

 

その続編は、前作から地続きから始まり、ハロウィン感を全面に押し出し、パワーアップして帰ってきた。


インディー魂剥き出しであった1作目から飛躍的に向上した本作は、魅力的なキャラクターの登場に加え、セット・衣装・小道具・エキストラといった枠の部分が大幅にブラッシュアップされ、ハロウィンという極彩色に溢れた造形にかなり漲った仕様となっていて世界観が拡大。


また、本シリーズの持ち味であるピエロのアート造形美は、前作の「ギコギコしちゃうぞ♪」だったコピーは、「全米が吐いた!?」と上書きされている通り、こちらも残虐純度は高まりにより、ハロウィンの新たなるアイコンが爆誕し、さらなるシリーズ化の予感もビンビンする上昇気流に乗っている勢いのある作品に仕上がっている。

 

【2023年】年間映画ベスト10 まとめ

10. EO イーオー

非常に素晴らしい作品たる所以は、ロベール・ブレッソンvsイエジー・スコリモフスキという時空を超えた世紀の一戦としてみてとれる。

 

そして、イーオーvsイザベル・ユペールという異種格闘技の実現。

 

ロバの視点を通じて、人間の本質を炙り出す基本姿勢は、もちろんブレッソンの「バルタザールどこへ行く」からのインスパイアであるが、単なるオマージュではなく、あのイエジー・スコリモフスキの「EO イーオー」に昇華された。

 

バルタザールどこへ行く」は、ブレッソンの宗教観になぞられた映画であり、物語もあったのに対し、「EO イーオー」はロードムービーとも感じ取れるし、ブレッソン以上の地獄巡りにも思える、各エピソードのつながりもやや曖昧。

 

満を辞して登場するイザベル・ユペールが全てをさらっていってしまう存在感があるが、本作の主人公はロバのEOだ。

 

そのEOだけではどうしても足りないパートを補うのが、画面を支配する赤色をはじめとするミハウ・ディメクの雄弁な撮影、世界の映画賞を席巻中のパヴェウ・ミキェティンによる繊細で重厚感あふれる音楽で表現されている。

 

動物愛護が厳しい中、否だからこそ制作される必要があるのかも知れないが、かなり攻めた内容にも関わらず、こんなにも愛おしいなんて、キュートすぎる。

 

カンヌ映画祭審査員賞。

 

9.Sin Clock

内容的に「最後まで行く」とも通じるクライムサスペンスだが、個人的にはこっちの方が好み。

 

それにしても、天才たちの共演なのに、劇場が混み合っているのか、上映館数日が少ないのが非常に勿体無かった。

 

本作は、今回が商業用デビュー作となる新鋭、牧賢治による監督・脚本が抜群に冴え渡っていて、すでに大物化する匂いがする、近年稀にみる和製フィルムノワールの傑作。

 

94分というコンパクトな尺に必要な内容がミニマムかつマキシムに詰まっていて、これを粗く感じるかセンスがいいと感じるかによって本作の評価が別れるところ。

 

本作で過去出演作トップクラスにハマり役をみせるタクシードライバー窪塚洋介をはじめ、坂口涼太郎、葵揚のほか、橋本マナミ、田丸麻紀長田庄平(チョコレートプラネット)、藤井誠士、風太郎、螢雪次朗、般若、Jin Doggといったユニークな面子が集結。

 

ほとんどが夜の場面で黒い映像が奥深さを感じ、20年代最前線のオルタナティブロック、ヒップホップが艶めいていて、画面も音も時に澱んでいたり、ギラギラしたり、その対比は緩急が効いていて、切れ味は鋭く、病みつきになる逸品だ。

 

8.ザ・キラー

バキッバキッにキマった予告編の段階からもうヴィンヴィンに漂ってくるその気配からこれは劇場鑑賞必須の作品であることが濃厚に示されており、その予感は大正解だった。

 

フィンチャーベスト5更新、Netflixオリジナル映画ベスト更新、今年のベスト10入り確定など大満足の1本だった。

 

配信がはじまる前にすみやかに劇場で鑑賞できて大変よかった。

 

⚠️以下やや内容に触れているため注意⚠️

ダークな画、重低音が響き、マイケル・ファスベンダー演じる寡黙な殺し屋が登場する。

 

近年のフィンチャー作品は過去の大名作に挑む傾向にあり、今回はどんな作品なのかと期待を胸に鑑賞を始めたところ、驚愕の作品であった。

 

ベースとなっているのは、なんとメルヴィルの「サムライ」。

 

加えて、ジャームッシュの「ゴースト・ドッグ」「リミッツ・オブ・コントロール」、マイケル・マンの「コラテラル」、レフンの「ドライヴ」なんかも混じっているフィティッシュさに満ち溢れ、フィンチャー色に染め上げた作品。

 

要は「ジョン・ウィック」などのケレン味に溢れたド派手な肉体的アクション系の殺し屋映画ではなく、精神的に重きをおいた静の路線だ。

 

でもよく考えれば、なかなかの相性のよさではある。

 

余分なものを削ぎ落とし、ガリガリッに尖っていて、ダーク、ヘビー、それでいて、スタイリッシュ、クールという求道的で孤高の存在という無骨さはハマるに決まっている。

 

台詞は最小限だが、フィンチャー映画らしい主人公のナレーションが挿入され、ヒリヒリした緊迫感が途切れずに映画が進行する。

 

派手なアクション系ではないと言いつつも、フィンチャーらしいバイオレンス描写はそこそこある。

 

あと、特徴的なのが音楽の使い方。殺人前後にヘビロテするのはザ・スミス、殺し屋哲学を繰り返し、仕事を遂行する。

 

スコアは、フィンチャー作品の常連であり、トレント・レズナーアッティカス・ロス

 

スコア使用時以外は、「How Soon Is Now?」「Bigmouth Strikes Again」「I Know It's Over」などのザ・スミスの曲で統一されていてる。

 

キラーがルーティンとして、セラピー的に使っている。

 

そして、殺し屋哲学を繰り返し暗唱することで、心の平穏を保ち、自らを律していて、静かに仕事を遂行する。

 

撮影は「マンク」に続き、近年のフィンチャー作品を手掛けるエリック・メッサーシュミット

 

暗い画面が多いフィンチャー作品だが本作でも夜の街、室内など暗い画面に映える青や黄色の色調が目立つ。

 

アレクシス・ノレントによる同名グラフィックノベルを原作に、「セブン」などのアンドリュー・ケビン・ウォーカーが脚本を手がけた。

 

残念な点を言えば、Netflixオリジナルっっぽく、ポスターやジャッケットがダサくて、オープニングがこれまでのフィンチャー作品に比べて安っぽく短い。

 

とは言え、本編は文句なしに面白くて、新たに誕生したフィンチャー作品の痺れる傑作である。

 

2023年ベネツィア映画祭コンペティション部門出品。Netflixで2023年11月10日から配信。先行して10月27日から限定的に劇場公開された。

 

7.キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

3時間26分の果てにみえるのは、長さを無駄に感じるよりも、スコセッシらしい丁寧な描写で積み重なっていき厚みを増し、映画としての完成度が積みあがっていく手法の賜物が待っている。

 

1920年代のオクラホマ州オーセージ。先住民の言語・宗教・哲学など文化や人種の壁を超える細やかに考証。

 

アメリカの暗部である異文化が融合する際、利権目当ての隠蔽工作があからさまに行われる日常に募る不信感により、緊張感が途切れない。

 

その根底に流れるのは、利権を取得した先住民と白人との関係性の逆転による不協和音だが、これまでのギャング映画とも重なるという意味では変奏曲となっている。

 

もうひとつの見どころである、人種差別に伴う不審死事件が繰り返される日常の変化。

 

次第に異質なものへと変化し、いつの間にか事態が急変している経緯の描写が秀逸。

 

漂うムードもサスペンスから社会派ドラマへと強制的に戦慄のシフト変更を余儀なくされる。

 

とはいえ、ディカプリオ演じる役に伴う、大幅な脚本変更までした甲斐あって、ミステリー方向からの強制的な路線変更により、その物語の核心はラブストーリーだというところが功を奏している。

 

なお、本作において取り上げてられている問題はその時代においてある場所で限定に起こったことではなく、大なり小なりあるものの、現在進行形で社会や身近で発生すると可能性を孕んでおり、普遍的な題材だと認識することで、さらなる震撼を呼び起こさせられる。

 

注目が集まったディカプリオとデ・ニーロによる共演は、まさにドリームマッチの祭典となり大いに盛り上がり、新星リリー・ブラッドストーン、実力派ジェシー・プレモンス、ブレンダン・フレイザーらが重層感に拍車をかけている。

 

6.フェイブルマンズ

ここにきて、スピルバーグの中でも最高傑作を更新してしまった!!と唸らされるほどの大傑作。

 

単なるサクセスストーリーではなく、むしろその逆により、語られるスピルバーグの寓話。

 

巨匠になればなるほど自身の自伝的作品といったものが製作されることになるが、なかなかみる側にとっては、パーソナルな作品が多いという印象を抱いているが、本作においてはそのセオリーに反して、こんなにも万人向けにして、そしてめちゃくちゃ面白いというのが流石で、スピルバーグ組が結集した集大成。

 

共同脚本トニー・クシュナー、撮影はヤヌス・カミンスキー、そして御大ジョン・ウィリアムズの音楽。

 

映画に愛され、映画を愛した男の一生は、繊細な思春期を赤裸々に、そして正確ではないのかも知れないが、綺麗事だけでは綴れない、ままならさを実に見事に描いている。

 

天才にしても、その苦悩に満ちた過程や家庭環境であったことが手に取るように伝わってきて、想いの強さが込められた作品だった。

 

両親役、エンジニアの父親ポール・ダノ、アーティストの母親ミシェル・ウィアムズが共に素晴らしく、両者の理論と感性が上手く融合され、備わっているという背景は、希代のヒットメイカーに関する出自として説得力がある。

 

取り上げられる名作の数々による原体験、スピルバーグ過去作品のオマージュにも事欠かない。

 

ラスト10分のまとめ方にしても実にチャーミング。

 

5.レッドロケット

ショーン・ベイカーの新作「レッド・ロケット」は非常にご機嫌な映画で最高に面白かった!

 

前作「フロリダ・プロジェクト」にもあったユニークな登場人物、カラフルな色彩、心地よい音楽などの設定は通じるところがあり、その姉妹編的な作風。

 

本作では舞台をテキサスに移し、ロスでひと花咲かせていたが、落ちぶれたポルノスターが別居中の妻の元に一文なしで帰ってくるところからして、すでに引き込まれる。

 

そして、ドーナッツ屋でバイトするティーンエイジャーのストロベリーが登場するやいなや人生が薔薇色に好転し始める!

 

失うもののないことの強さと、女子高生の彼女など、映画でみる分には一見羨ましいだらけ。kその日暮らしの設定に夢をみさせてもらった。

 

4.別れる決心

劇場で2回みてしまったほどのハマっりぶりで、今年は本作を超えてくるかどうかがベスト映画の基準となる作品となった。

 

「パラサイト」の次はこれ!という宣伝は刺さる人には刺さり、自分にはモロに突き刺さり、同作以来となる韓国映画の大傑作といった位置付け。

 

ヒッチコックの「めまい」オマージュや同様の構造を持ち、山と海をモチーフにした印象に残るシーンの数々による、大変上質なサスペンス&ラブスリーリー。

 

原発の監督官として働く仕事が出来て厳格な妻を持ち、仕事熱心な刑事を狂わす容疑者妖艶なファムファタールといった三角関係、というよりはほとんどがふたりを中心に展開する。

 

音楽も作品に同化しており、特に韓国歌謡「霧」とルキノ・ヴィスコンティの「ベニスに死す」で使用されたマーラー交響曲第5番第4楽章アダージェットが劇中で繰り返し使われる。

 

パク・チャヌク監督自身のベストを更新する渾身の一作となった。

 

カンヌ国際映画祭監督賞。

 

3.PERFECT DAYS

It's a perfect days.めちゃくちゃよい映画だった、ありがとう!と言いたくなる。


豊作が溢れる今年公開の映画においても、トップクラス。年末ながら、その期待値を遥かに超えて降臨した、鉄壁な映画。

 

親日家のヴィム・ヴェンダース×カンヌ映画祭男優賞の役所広司、映像美、音楽の選曲、キャストなどは終始絶妙な激渋センスを備えた逆輸入型の日本映画。

 

ミニマルなものの、その中で個性豊かなグラデーションに富んだ表現力は、本物たちの共演によってのみ生み出せる、心地よい圧倒的なグルーヴ感は異次元の領域に到達達している。

 

デジタルが突き進む中においても、アナログを一貫した不器用な男の生き方は、大変清々しい。

 

寡黙な役柄を台詞ではなく、生き様で語るという大変難しいアクトは国際的に高く評価され、今なお進化を遂げ続けている稀有な存在に一層磨きがかかっている。

 

いろんな意味で突き抜けている絶対にみるべき、今年必見作。未見のままでは年を越せない。

 

でも、クリスマスとか年末っぽい映画ではなく、カンヌ映画祭の頃のような、初夏にみたかった作品なので、季節感はやや残念。

 

カンヌ映画祭男優賞。

 

2.aftersun/アフターサン

監督は本作が長編デビューの新星、シャーロット・ウェルズ。

 

久しぶりに凄い才能に出会った、天才かっ!!

 

自身の自身の経験に基づく、父と娘による旅行の思い出ムービーなのだが、この映画は普通じゃない。

 

楽しいはずのトルコでのバカンスのはずなのにそれだけではない何かがある。

 

終始死の匂いが濃厚に漂い、どこかに違和感があるまま映画はひた進む。

 

説明的な台詞を極力省き、物語は余白が多く、想像を掻き立てられる描写が続く。

 

音楽の使い方も秀逸で音がいつまでも耳に残る。

 

映像は、物語を追う視点と親子が互いに向け合うハンディカメラによって繰り広げられる。

 

リアルタイムでの体験とそれを後追いで追体験したときは、ズレが生じるもの。

 

本作がユニークなのは、時間という補正概念が映画というフォーマットに最大限作用してるところに尽きる。

 

さらに、それはみているこちら側にも作用し、本作の意図するところを悟ると、作品のみかたが異なることにより、全く違う余韻が支配する。

 

本作は観賞後、すぐにもういちどみたくなるのだが、劇場館数も多くなく、もっと拡大上映して欲しいし、ロングランになればいいのに!

 

1. 私、オルガ・ヘプナロヴァー

本作は2016年ベルリン映画祭のパノラマ部門のオープニングとして公開されたものの、その後の長い沈黙を経て、この度イメージフォーラム他にて4月29日より日本にて劇場公開していた。

 

ベルリン映画祭に選出するに相応しく、社会派の作品であり、新人監督によるものだ。

1973年、チェコの首都プラハで実際に起きた事件の映画化であり、全くもって事件そのものは賛同できるものではないが、映画としては非常に素晴らしかった。

 

監督はチェコの新鋭、トマーシュ・ヴァインレプとペトル・カズダ。モノクロの陰影による撮影は「エッセンシャル・キリング」のアダム・スィコラ。

 

映画内で鳴っている以外の音楽を必要としない、無駄を削いだ緊張感の高め方、大胆な省略を多用したミニマル路線は完全にツボだった。

 

ブレッソン直系、特に「少女ムシェット」が内容的にも似ていて、その影響下にある後世の作品たちに新たなるピースが加わった。

 

加えて、本作の白眉は、オルガの死んでいた日常から、生に目覚めた禁忌に向かうアンサーを導き出す瞬間。

 

オルガの覚醒したその表情には、多くの作品に共通する光悦したものがみられ、完全に向こう側にいってしまった者のみがもつ、究極の越境者を体現している。

 

オルガを演じたのは、「ゆれる人魚」などのミハリーナ・オルシャニスカ。

 

本作でのオルガは、「ドラゴン・タトゥーの女」の頃のルーニー・マーラー級にキレキレだし、メンヘラ度は相当なものだし、それでも整ったそのいで出立ちはスタイリッシュ。

 

タクシードライバー」のトラヴィスや「ヘルタースケルター」のチャールズ・マンソンなどに代表される、映画のアウトサイダーサイコパスに新たなアイコンが爆誕した。

 

まとめ

今年の映画は、どれもこれも1位にしてもおかしくない粒ぞろいの当たり年。

 

しかも、ランキングに選出した作品は国に偏りがなく、バランスよく製作国がばらけ、バリエーション豊かなのも特徴的。

 

本来であれば順番など気にせずに鑑賞したいものの、なかなかこの悪癖は治らない。

 

便宜上ランキングにはしているものの、それでもベスト3は別格・圧巻だったというのは、備忘録としても記しておきたい。

 

それでは、来年もいい映画に出会えるように期待して、よいお年を〜。

 

最新情報はFilmarks(フィルマークス)で更新中↓

filmarks.com